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良く「経年変化」という言葉が使われますが、住宅の経年変化とはどのようなものなのでしょうか?
経年変化による損傷を工事による影響であると思い込み過剰なクレームになったり、逆に工事の影響であるものが経年変化であるとして処理されてしまう場合も少なくありません。
実際のところ、住宅の経過年数と障害程度の関係を示す資料等は殆ど見たりませんので、経年変化の実態について理解されていないことが多いようです。
建物が経年と共に老朽化してゆくことや、木材や左官材の乾燥収縮などによる損傷等について感覚的に理解はしているものの(中には何年たってもの変わることなくメンテナンスフリーのように思っている方もいますが)、その実態について具体的に知る事が大切であると考えます。
私たちは建設工事を行う前の事前調査データ(外乱要因を受ける以前の状態)を分析して、経過年数と損傷の関係について調査分析を行いました。ここではその一部をご紹介いたします。
(詳しくは巻末に紹介の発表論文等をご覧ください)
 
 

(1)経年変化の調査データ

 
(2)不同沈下の特徴
(3)経過年数と損傷の関係
(4)経過年数と障害程度

   (1)経年変化の調査データ
調査対象は都内及び近郊の比較的軟弱な地盤地域165地区の戸建て住宅1,803棟である。調査建物の内訳を表-1に示した。また、図-1には調査建物の築年と調査時期及び増改築年の分布を示した。
調査建物の特徴としては、木造2階建が全体の約8割、1975〜1985年建築の建物が過半を占め、経過年数の平均は15年である。経過年数25年を越えると増改築の頻度が高くなり、30年を越える建物は全体の1割に満たなくなる。このことから築後30年が実質的な耐用年数と考えられる。



表-1 データの内訳
内訳
件数
割合

木造系
1,488 82.5%
非木造系
247 13.7%
不詳
68 3.8%

平屋
207 11.5%
2階建
1,584 87.9%
3階建
12 0.7%
総件数
1,803 100%

図-1 建築年と経過年数の分布
 

   (2)不同沈下の特徴

水盛管による床の水平測定の結果から、不同沈下の特徴について以下に示した。不同沈下量は内部床の各測定点のうち最大値、傾斜角は各測定間の最大値である。
図-2、図-3は経過年数と傾斜角及び不同沈下量の関係を示したものである。これより、経過年数5年以下の年数の浅い建物でも、すでに傾斜角3/1000rad弱(中央値)、不同沈下量20o弱の発生が見られ、20年(傾斜角5/1000弱、不同沈下量40o程度)まで増大傾向を示し、その後沈静化してゆく事がわかる。
また、図-4は不同沈下量と建築面積の関係であるが、平屋より2階建に沈下量が大きく、建築面積が大きくなるに従い沈下量が小さくなる傾向が読みとれ、共に圧密沈下の特徴を表している。
尚、変形角の発生状況から建物の沈下形状を分析したが、データの範囲では特に傾向は見られなかった。

 


図-2 経過年数と床の傾斜角の関係
 

図-3 経過年数と不同沈下量の関係

図-4 建築面積と不同沈下量の関係
 

   (3)経過年数と損傷の関係
図-5は左官仕上げの内外壁の亀裂の発生状況である。亀裂幅は最大幅、亀裂量は測定を行った箇所の亀裂幅の総和の各平均値である。但し、測定個所は限られた時間内に代表的な損傷を測定している箇所数であるため、亀裂量は損傷の総量とは異なる。
築20年頃までの増加は沈下傾斜と同様で関連が伺えるが、沈下傾斜がその後沈静化するのに対して、損傷は更に急増する点が異なり注目すべき点である。
なお、亀裂の発生は建築時点ではごく僅かであるが、5年までの発生が目立つ。特に外壁は顕著で平均幅0.5oを超え、急激な変化である。

図-6は内壁の隙間、図-7は建具の建付隙間の発生状況であるが、概ね他の分析項目と同様の傾向を示すが、内壁は、亀裂が1年未満では殆ど発生していない(図-5)のに対して、1o未満の隙間が20%程度見られ、5年以内に0.5oを超える隙間の発生率は50%を超える点が特徴的である(図-5にも隙間と亀裂を合わせて示した)。
建具は経年と共に除々に増加し、15年を超えると6o以上の隙間の割合が30%程度になる。
 

図-5 経過年数と内外壁の亀裂の関係

図-6 経過年数と内壁の隙間

図-7 経過年数と建具の建付隙間
 

   (4)経過年数と障害程度
表-2は、経過年数と各損傷の関係について、既往の老朽程度や障害程度の判定区分に対応させてまとめた。
 
表-2 経過年数と障害程度の関係(案)
 
5年未満
5〜15年
20年程度
30年程度
30年超
不同沈下
10〜20mm程度
30mm程度
40mm程度
床傾斜
2/1000程度
A
3〜4/1000
A
5/1000程度
A
柱傾斜
5/1000以下が
約8割


A
6/1000以上の傾斜が
3割程度発生するが
12/1000を超えるものはごく僅か

6/1000超が
5割近くに なり
12/1000を超える ものが1割を超え目立つ

6/1000超が7割を超え
12/1000超が2割を
超える

12/1000超が4割に
達する


外 壁
1.5mmまでの亀裂が
急激に発生4割以上に
損傷有り

B
1.5mm超の亀裂が
1割を超え増加傾向
損傷の発生は5割を
超える
C
2mm以上の亀裂が
1割を超え目立つが
全体に安定基調

D
損傷の発生頻度増加
3mm超の亀裂が
約1割近くに達する

D





D

内 壁
1mm以下の隙間が
3割近くに急増
1mm以下の亀裂が
僅かに発生
A
1mm超の隙間が4割を
超え目立つ
1.5mmまでの亀裂が
3割を超え目立つ
B
4mm程度の隙間増加
その他 安定基調


B
損傷の発生頻度が
6割を超え増加
3mm以上の隙間が
2割超える
C

亀裂2mmを超える
ものが見られる

C
雨漏り

発生はまれ


A

1カ所程度の発生が
5%程度

A

1箇所程度の発生が
1割程度に見られる

B

複数箇所に発生 2割に
雨漏りが見られる

C

複数箇所に急激に
発生し 2割に達する

D
建 具
5mmまでの隙間が
9割でほとんど6mm超
は僅か

A
10mm程度の隙間が
1割を超え目立つ


B
10mm程度の隙間が
2割に達する
10mm超が1割

B

開閉不良複数生じ
目立つ

C




C
老朽程度
老朽化なし
A
幾分老朽化
B
老朽化
C
老朽化著しい
D
障害程度
初期段階
第1期段階
第2期段階
第3期段階
 

   あ と が き
人間の身体が50歳を過ぎて何処かしら悪くなるように、建物の経年変化も、ある一定の年月が経つと損傷が生じたり、または目立つようなイメージ(下図の青いライン)がありませんか?
しかし実際には、これまで見てきたように築5年〜10年くらいまでの変化が著しく、建てたばかり(人間で言えば乳幼児?)でも、2/1000程度の傾斜や0.5o程度の内壁隙間が見られる事が分かります。
実際の建物の経年変化は、下図の赤いラインのように生じ、築5〜10年位までの乾燥収縮等による変化、その後の圧密沈下や磨耗等による変化、築25年過ぎの部材の劣化に等による変化を総称して「経年変化」となります。
一括りに何でも「経年変化」で片付けるのではなく、経年変化の特徴をよく理解することが重要です。
 
 
※さらに経年変化についての詳細は下記の論文等をご覧ください。(要ユーザー登録(無料))
 

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