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平成30年北海道胆振東部地震
液状化被害の沈下修復工事についての注意

 このたびの地震により、お亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災された方々に心からお見舞い申しあげます。

 このたびの地震では地盤崩壊や建物の倒壊の他に、液状化により多くの住宅に大きな被害が生じました。

 今後、沈下修正などの復旧工事が行われる事になると思われますが、これら復旧工事(主に沈下修正工事)における注意点について急ぎとりまとめましたのでご紹介致します。

 当研究所では、日本建築学会「小規模建築物基礎設計指針」(以下「小規模指針」)の第10章「基礎の障害と修復」の執筆に携わり、この資料は東日本太平洋沖地震の液状化被害の復旧にも参考とされました。

復旧・復興支援WG「液状化被害の基礎知識」(日本建築学会 住まい・まちづくり支援建築会議)

 また、実際の復旧工事の実態調査を行い、その結果についてもご紹介致しましたが、未曾有の被害のなか、様々な問題点やトラブルがありました。
 今回の震災における今後の復旧工事では、これらを教訓に、少しでも速やかで安全な復旧がなされる事を期待します。
 以下には、沈下修正工事の概要と注意点についてご紹介致します。

 

①沈下修正工事の種類と概要

 住宅の沈下修正工法は、図-1のような工法が小規模指針に紹介されていますが、液状化復旧工事では、このほかに欄外の(k)ブロック圧入工法も見られました。

 これらの工法は、基礎と土台を切り離してジャッキアップする方法(fとg)と基礎の下からジャッキアップする方法(h~k)に大別できます。

 基礎と土台を切り離す工法は、在来軸組構法(一般的な木造住宅)など基礎と土台が切り離せる構造である必要があり、建物をジャッキアップする反力は地表面の地盤となるため、地盤が安定している必要があります。

一方、基礎下からジャッキアップする方法は、耐圧版や鋼管などにより所定の深さの地盤反力によりジャッキアップします。

 図-2は東日本太平洋沖地震における、ある地域の復旧工事(沈下修正工事)の工法別の割合を示したものです。

 各工法にはそれぞれ特徴(長所短所)がありますが、工法の選択には経済的な理由が大きいようです。詳しくは以下の実態調査の報告をご覧下さい。

   実態調査の詳細については以下をご覧下さい。

      技術情報かわら版 第86号 液状化被害の沈下修正工事の実態調査

   また、各工法の概要と概算費用等は以下をご覧下さい。

  復旧・復興支援WG「液状化被害の基礎知識」(日本建築学会 住まい・まちづくり支援建築会議)

 



  図-1 沈下修正工法の種類


  図-2 東日本大震災時の液状化被害における住宅沈下復旧工事の工法割合
   
  ②各沈下修正工事の長所・短所
 以下には各工法の長所短所のみを示しました。各工法の概要については各工法名にリンクを貼りつけてありますので、リンク先の 資料をご覧下さい。
 

根搦工法】(在来工法・レール揚屋)
(長所)
根搦材(鋼材)で建物を固定して一体にジャッキアップするため、変形が抑制出来て建物へのダメージが少ない。
(短所)
根搦材(鋼材)の設置のため床や外壁等を撤去する必要があり、この復旧や根搦材自体の設置費用が掛かるのでポイントジャッキに比べて高額となる。
建物をジャッキアップして基礎を再構築できるが、地盤補強対策を講じなければ再沈下の可能性がある。 

  【ポイントジャッキ工法】(土台揚げ・プッシュアップ)
(長所)
最も簡便な方法で、他に比べて費用も安価で工期も短い。建物条件によっては住居のまま施工できる。
(短所)
個別にジャッキを設置してジャッキアップすため建物に変形が生じる場合がある。
既存基礎をそのまま天端を調整して使用するため、単なる沈下修正であり、再沈下防止につては全く考慮されない。(これが最も重要))
  【耐圧版工法】【耐圧版工法】
(長所)
基礎下から一体にジャッキアップするため建物へのダメージが少なく、ベタ基礎の場合には居住したままの施工が可能(布基礎の場合も対応可能)。
(短所)
耐圧版(鉄板など)を反力にジャッキアップするので、耐圧版下の地盤が沈下すると建物も再沈下する。基本的に再液状化時の沈下防止効果は期待できない。
掘削土量が多くなるため残土の処理が問題(掘削土を埋戻すと後に基礎下に沈下が起きる)
耐圧版下の地盤反力が小さいと、耐圧版が沈下してジャッキアップ出来ない場合がある。
  【鋼管圧入工法】
(長所)
基礎下から一体にジャッキアップするため建物へのダメージが少なく、ベタ基礎の場合には居住したままの施工が可能(布基礎の場合も対応可能)。
鋼管を液状化層以深まで圧入する事で再液状時にも建物の沈下を防止出来る。
(短所)
他工法に比べて施工費が高額となる場合が多い。
鋼管の鉛直精度や継ぎ手の強度が確保できていないと所定の支持力が期待出来ない。
  【注入工法】
(長所)
基礎下から一体にジャッキアップするため建物へのダメージが少なく、居住したままの施工が可能(原則的にベタ基礎のみ対応可)。
建物の解体や大きな掘削を必要とせず比較的施工が容易で工期も短い。

(短所)
注入材(セメント系・ウレタン系・水ガラス系)によって特徴が様々。
沈下修正量のコントロールが難しく業者による格差が大きい。
薬液が敷地外に流入する等して二次被害が生じる場合がある。
  【ブロック圧入工法】
(長所)
基礎下から一体にジャッキアップするため建物へのダメージが少なく、ベタ基礎の場合には居住したままの施工が可能(布基礎の場合も対応可能)。
液状化以深の支持層までブロックを圧入出来れば再沈下防止効果がある。

また、地盤中にブロックを圧入するため地盤の締め固め効果が期待出来る。
(短所)
単に縁石状のブロック(右写真)を地盤に圧入するだけの工法は、支持形態が明らかでなく支持力が不確か。
液状化以深の支持層まで圧入しない場合は再液状化時の対策効果は期待出来ない。

まとめ
 復旧工事を検討するには、何れにしても、各沈下修正工法の特徴(特に短所)を良く理解して決める事が重要です。
 住宅所有者の方は、専門知識のある方は少ないので、専門業者の説明に頼る事が多くなると思いますが、このようなサイトの情報を是非参考にして頂ければと思います。(当研究所は業者と利害関係がないので自由に書けます。)

 今回の清田地区は過去にも液状化被害が見られている通り、液状化した地域は再液状化の可能性が十分にあります。
 再液状化に際しての「再沈下の可能性」についての説明が「きちっと出来ない(しない)業者」は要注意です。

 国や地方自治体の支援方針が決まると、その支援金を目当てに様々な業者がアプローチして来ると思います。
 どの工法にも必ずリスクはありますが、そのリスクを説明せずに、単に「支援金の範囲で施工します!個人負担はありません!」等の説明に終始する業者は要注意です。

 上記には各工法の一般的な長短所を示しましたが、特に注意が必要なのは「ポイントジャッキ工法」と「注入工法」です。

 ポイントジャッキ工法では、ジャッキをセットするために基礎の一部を解体する必要がありますが、この際に、作業性を優先して、基礎の主筋(基礎の上側にある最も重要な鉄筋)を切断しても補強しないケースや、ジャッキアップ後に基礎と土台の間に端材を詰めるだけのケースが見られます。これらはモルタルで化粧して仕上がると外観的には分からなくなるので、特に注意が必要です。前者は鉄筋を切断しない、または必要な場合には十分な補強を行う、後者は所定の強度の台座を使用するか、鉄筋を配筋してコンクリートを打設するなどの対応が必要です。

 また、注入工法は地中に薬液を注入するので注入状態やリフトアップの状況が直接確認できません。このため、薬液が敷地外に流出し、排水管を閉塞したり、隣の建物を隆起させてしまう事故が見られました。
施工実績が確かで、万一の場合の対応力がある業者の選定が重要と考えます。
 不明な点があれば右上の「ご質問等」からお問い合わせ下されば、可能な範囲でお答えさせて頂きます。

 

基礎の主筋を切断しているケース

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