≪CADAP≫ 被害予測システム
中央建鉄(株) アセス部 地質調査部
Top Page困ったときは.....トピックス事業損失の基礎知識開発システム CADAP,CADAP-Jr,Referee技術情報事業損失Q&Aユーザーサイトご質問・お問い合わせはこちらから
 
地盤変動と振動をはじめ事業損失に関係した収集判例について分析した結果をご紹介します。
収集判例は、昭和年代から近年(平成29年1月時点)までに公表されている判例について、「地盤沈下」「不同沈下」「振動」をキーワードに検索した総数224事例です。

なお、収集判例の一覧につてはこちら→「補償判例一覧」(利用者登録が必要です)
ご希望の方には、この一覧にある判例の概要シートをご提供致します。(但し、個人登録の方はご利用出来ません。)
 
1.事件区分別の発生割合
  図-1には年代別の事件区分別の事件数、図-2には要因別の事件区分、図-3には事件区分毎の判決区分数、図-4には審判区分別の判決区分数を示しました。要因区分の>内的要因」とは、欠陥住宅問題のように対象建物等の建築の問題など内的な原因によるもの、「外的要因」とは近接工事等の外的作用によるものです。

図-1は収集した判例の母数の特徴を示したものですので、実際の発生状況では無いことに注意が必要ですが、どの年代においても「損害賠償請求」事件が最も多いようです。
図-2の要因別の事件区分を見ると、圧倒的に損害賠償請求訴訟事件が多く、外的要因においては行政訴訟も目立ちます。また、図-3の判決区分を見ると、全体で総数224件に対して「容認・和解」は130件と約6割です。また、「却下・棄却」の割合は、損害賠償訴訟では191件に対して68件と1/3程度ですが、行政訴訟では18件に対して16件と約9割となっているのが特徴です。
図-4の審判区分別の判決を見ると「却下・棄却」の割合は、一審では176件に対して63件と約1/3程度が、上級審に進むにつれて多くなり、この集計では上告審で「容認」された判例は見られませんでした。


zu-1  zu-2 
図-1 年代別の事件数 図-2 事件区分と要因区分
  zu-3  zu-4 
  図-3 事件区分と判決区分  図-4 審判区分と判決区分 
 2.原告と被告の属性区分と判決区分別の事件数
図-5には原告の属性区分と判決区分を、図-6には被告の属性区分と判決区分を示しました。

原告の属性区分では、個人と集団が約9割近くを占め、判決区分においては「集団」の場合に「却下・棄却」となる割合が高くなる傾向が見られます。一方、被告の属性区分では「法人」が対象となる場合が多く、また、「行政」の場合には「却下・棄却」が「容認・和解」を上回る結果が見られます。
     
zu-5 zu-6
図-5 原告の属性区分と判決区分  図-6 被告の属性区分と判決区分 
 3.工事種別と被害区分別の事件数
  図-7は工事種別の事件数、図-8は被害区分別の事件数を要因区分別に示しました。

図-7の工事種別を見ると、内外要因とも「建築工事」が多く、総件数では約4割を占めます。要因別に見ると外的要因では、建築工事以外でもその他様々な工事において見られ、また、内的要因では「不動産取引」が特に多く目立ちます。
図-8の被害区分別を見ると、「沈下・陥没」が全体の5割弱を占め最も多く、外的要因では「振動」、内的要因では「欠陥」が多く見られます。
  zu-7  zu-8 
図-7 工事種別と要因区分  図-8 被害区分と要因区分 
     
 4.工事種別と被害区分別の請求額と判決額
図-9は工事種別、図-10は事件別の1事件当たりの請求額と判決額の平均額を示しました。但し、金額の全体像を見るため、1件あたり1億円を超える事件は除き、また、事件数が3件を下回る工事種別は除外してあります。
また、金額にはそれぞれ建物等の本体請求額の他に、慰謝料や移転費、弁護士費用、調査費用などが含まれます。「判決額比率」は請求額に対する判決額の割合を示しています。

全体を見ると請求額の平均は約2,500万円に対し、判決額は約1,200万円と判決額比率はおおよそ5割程度です。
図-9の工事種別を見ると、図-7で最も事件数の多かった「建築工事」の請求額と判決額が最も低く、「道路工事」が最も高いですが、事件数は4件と少ないため、必ずしもこれが傾向を示しているものとは言えません。一方、不動産取引の判決額比率が7割である事は特徴的です。
図-10の事件区分を見ると「損害賠償」が請求額、判決額共に多く、「行政訴訟」では請求が容認された1事例のみでした。
   
  zu-9  zu-10 
  図-9 工事種別ごとの請求額と判決額  図-10 事件区分ごとの請求額と判決額 
     
 5.まとめ
  これらは所謂「建築紛争」と言われる事件です。建築紛争の特徴としては、建築工事の損害賠償請求事件、一審(地裁)で解決(判決または和解)、「沈下」や「振動」または「建物の欠陥」の問題が多く、1事案当たりの平均の請求額約2500万円に対して1200万円程度で解決している事件が多いようです。
 また、個人が法人や行政を訴える場合が多いようですが、結果としては結構厳しい結果となることが多いようです。

民事訴訟の判決に至るまでに要する期間は3年程度と言われていますし、上記の判決額のうち弁護士費用などが十分に認められるケースも少なく、時間的・金銭的な原告サイドの負担は少なくないと考えられます。
このためにも、出来る限り訴訟に至らずに解決できることが肝要と考えます。

この分析には現れていませんが、事件の内容を見ると損害の実体が明確にされず、原告側の主張が曖昧な事例が目立ちます。訴訟に至る以前に、適切な専門家(必ずしも弁護士ではありません)の助力を得て、相手方を和解の方向に導く工夫が必要ではないかと考えます。
All Rights Reserved, Copyright(C) Chuo-Kentetsu Co.,Ltd