2008年2月に改訂された日本建築学会「小規模建築物基礎設計指針」(以下「指針」)には、建物の不同沈下を「変形傾斜」と「一体傾斜」の沈下形状を判断し、それぞれ損なう機能を考慮して修復の要否を検討する事を規定しています。前者は構造軸組の変形による構造的な問題(前述の被害判定が主眼とするところ)、後者は使用性や機能性など居住性の問題(液状化被害の多くはこちら)です。(旧「小規模建築物基礎設計の手引き」では基礎の剛性が低く不同沈下した場合にはほぼ「変形傾斜」となるため区分されていませんでした。)
柱の傾斜(鉛直)に比べて、基礎や床の沈下傾斜(水平)は、居住性を大きく支配するので、許容レベルを超えれば、使用上や機能上の不具合が生じ、ある限度を超えれば「居住出来ない」と言う建物の「根本的な機能」を失う事となります。基礎や床の沈下傾斜程度は、指針表10.2.2によれば、傾斜角の標準限界値は6〜8/1000であり、使用上機能上の支障を生じます。また、表10.1.1によれば、傾斜角8〜10/1000でほとんどの建物で建具が自然に流れ、排水等が逆勾配となり建物の機能を大きく損います。
前述の1/60は17/1000に相当し、めまいなど居住者に生理的な影響が出るレベルは建物の居住性の観点からすれば論外で、これ以下の傾斜を無視出来るものではありません。
少なくとも、建物の機能を損なう8〜10/1000を超える場合には「不同沈下等により布基礎の沈下又は傾斜が生じた場合」に相当すると考えるべきです。
但し、一般に沈下修正費用は再築費用の1/2程度以下と言われています。上述の規定により「全壊」と判定されても一体傾斜による建物の沈下は上部構造は健全で、沈下修復を行えば機能を回復出来る事から、この点を考慮して判定がなされるべきと考えられます。
上述のように認定基準自体に不具合がある訳ではなく、運用上の問題です。この被害認定は、応急危険度判定や被災度区分判定と異なり、経済的損害の把握を目的とするものですから、調査を実施される専門家や認定を行う行政の担当者の方が、建物の構造安全性ばかりでなく居住性の観点も目を向けて運用される事を望みます。
構造的に安全でも居住性に支障があれば修復せざるを得なく、その修復には多額の費用が必要となる訳ですから。
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